坂戸事業所のYJです。
9月末に「世界一美しい本を作る男 -シュタイデルとの旅- 」 という映画を観てきました。
「世界一美しい本を作る男 -シュタイデルとの旅-」 は、2010年にドイツで制作されたドキュメンタリー映画です。
世界で一番美しい本を作る男、ゲルハルト・シュタイデルは、社内ではいつも白衣をまとい(そういえば、ドイツの印刷機メーカーのH社のエンジニアもかつて同じ様な作業衣を着ていたのを見た覚えがあります)、まるで研究者のようないで立ちです。
事実、「ここは工場ではなくて研究室」とシュタイデルは語っています。
シュタイデル社は出版社とは言っても、企画から編集、装幀、デザイン、印刷、製本、全ての工程を自社で行っています(ドイツにはこの様な出版社が多いようですが)。
社内は出版社というよりは、まさに印刷工場です。用紙やインキを選び、デザインを考える。紙の手触り、インキの匂いにいたるまで徹底的にこだわる。工場に新しい設備を導入し続けるということではなく、既存の設備を使いその中から斬新なものを創り上げていく。
その過程は、なるほどそこが研究室と呼ぶのに相応しく見えます。
もともと彼は印刷からスタートしていますので、出版の仕事はその延長線上に過ぎないように思います。
また、シュタイデルは合理的でアグレッシブな営業担当者でもあり、経営者でもあります。
利益がさほど上がらなくとも価値のある仕事をする一方でノーベル賞作家のギュンター・グラスの作品「ブリキの太鼓」のように、価値もあり利益も上がる仕事をし経営のバランスを取っているようです。
電話よりも会って打ち合わせをするのが一番早いと、飛行機でアーティスト達のアトリエに直接出向く。用紙見本や印刷した実物を見せて話をしたほうが、正確にお互いの考えが伝わるからです。
ニューヨーク、パリ、カナダ、カタール、などなど、文字通り世界を股にかけた旅の過程で、飛行機の席は彼のオフィスに変わります。
その仕事ぶりは、紙見本、貴重なヴィンテージプリントや原稿がぎっしりと詰まった彼のスーツケースの中身のように無駄がありません。
ノーベル賞作家のギュンター・グラス、シャネルのデザイナー、ニューヨークの著名なフォトグラファなど、彼らとの仕事ぶりはただ観ているだけで楽しく感じます。
シュタイデル自身もアーティストであり、共同作業で出来た本は、それ自体が美術作品と言えるかもしれません。
シュタイデル社内での本機校正刷りの場面があります。
シュタイデルがデリバリ(印刷機の排紙部)から抜く刷本には、コントロールストリップがくわえ側にあります。
私もまだまだ、印刷屋のハシクレでです。そう、シュタイデル社にある印刷機は、H社製ではなくR社製でした。
また、シュタイデルが、パウダーが付いている工場内の印刷機を掃除している場面がありますが、シュタイデルの父親は、印刷機の清掃係りだったそうです。
そんなひとつひとつの場面を観るだけでも、印刷に携わったことのある者にとっては、たまらない作品(映画)です。
この映画のパンフレットから「世界一美しい本」を作るシュタイデル社の仕事術を転載します。
1.クライアントとは直接会って打ち合せすること
2.全工程を自社で行い品質を管理すること
3.「商品」ではなく「作品」を作るつもりで望むこと
映画の最後の場面で、シュタイデルが、こう言います。
“今はニスも合成のものがある。でもニスは油性でないとだめだ。油性ニスのこのにおいが良いのだ。”
映画の中で色々と専門用語がでてきます。この種の映画では、えてして翻訳が間違っていたりしますが、この映画に誤訳はなかったように思います。字幕翻訳は印刷博物館の学芸員のかたでした。
『世界一美しい本を作る男 -シュタイデルとの旅- 』 公式サイト
http://steidl-movie.com/
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